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わ!大魚が釣れた!
Big Fish 1999 66 × 88 cm
ニューヨークの次郎長 第9回
「追い出されて、泣き寝入りさ」 「恐ろしい話ですねえ」 「アラブの金持絵描きが、二十五万ドルで買って住んでるよ」 「汚ねえことをしやがる、これから行く、常吉さんとこの大家も、そんなやつで」 「まあ、会って見な」 戦車のように馬鹿でかい、ごみ専門のトラックが三台、半分タイヤを歩道に乗り上げ、駐車中、あたりは、紙くずが、傍若無人にとびかっている。 積荷の際、こぼれたんだろう。 清掃と云う感覚は、この街にはねえのかなあ。 突っかい棒しなければ、いまにも崩れて来そうで、恐くて入れないような、ボロ中のボロ、三階建レンガビルの入口が、ぽかっと真黒な大口を開け、しんと静まり、人の気配がない、春の陽気に、皆、買物や散歩に浮かれてるって云うのに、この通りだけは、死んでる様だ。 常吉は慣れた足取りで、ずんずん進み、暗闇の奥に向って、 「オフィス」 と怒鳴った。 「OK」 の返事に、右横の、ガタビシの木造階段を昇った。 異様な臭気と、階段両脇に、DDT(殺虫剤)らしい白い粉が撒いてある。 「ノミでも出るのかい」 「ダニ、だよ、春到来と共に、ビル全体に、ダニが大量発生、天井からも、ボタボタ落ちるんだ、大家はゴミ屋なんだよ、印刷所で裁断した余り紙をトラックで集めて廻り、再生工場でチリ紙にする仕事、それに本物のギャベッジも集め、ゴミの島に運ぶんだ」 ニューヨークシティーの清掃車は、ギャベッジ缶やビニール袋に入った小物だけしかもってかない。 それで、レストランや町工場、大工から出た古家具、冷蔵庫、チャイニーズの縫物工場の大量の布切れ、レストランの臭いゴミは、プライべ−ト清掃車にたのむことになる。 レストランが開店すると、キャディラックに乗ったアンチャンがすぐやって来て、 「お前んとこのギャベッジは、俺のなわ張りだから、月月これだけ金を払え」 と来る。 もし断われば、営業中に、でかい石が、窓破って、客の頭に向って投げ込まれることになるから、店は、云うなりに払う。 ニューヨークじゅう、きちっとなわばりが、決められ、絶対に、よそ者は手を出せない。 「ギャング映画で、知ってるだろう、マの字だよ」 「マの字ってえのは」 「シシリー島から、百年前にアメリカに渡ってきた、イタリア人のファミリー、通称、マフィヤ、と呼ぶんだ、うちの大家は、ガンビーノ系で、ガリレオ一家、ジョー、サム、カローネの三兄弟が中心で、ごたごたが起ると、ジョーの一声で、ボーイと呼ぶ若い者がとんで来て、払いが溜まれば脅かし、それでも、ごねるやつは、家財道具ごと、道路に、おっぽり出されるのよ」 「へえ−、でもこんなあばら屋に、三兄弟、住んでいるんですか」 「馬鹿、ここはオフィスで、月から金まで働く、やつらは皆、ブルックリンの一等地、海の見えるピカピカの本宅で、カアチャン、子供、オバアチャンと、なごやかにやってるよ」 ガタビシの木のドアーを押すと、Tシャツに両手を突込み、ぼりぼり引っかいているやつがいる。 カローネだ。 兄弟とはいえ、まだ三下扱いで、ゴミトラックで、近所のギャべッジ回収をさせられている。 葉巻の煙が、もうもう立込める狭く細長い三つ続きの部屋の奥から、 「常、カモーン」 とジョーが呼んだ。 |
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