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灯台の丘に怪獣が出た!
Monster and Lighthouse 1999 71 × 91 cm
ニューヨークの次郎長 第12回 黒髪の踊り娘 ここがバーでございますよ、と店の名前を大書してかかげてあるバーは、この辺には一軒もない。 取っ手の壊れてしまっている、ガタビシのドアーを力一杯押しあけて入る、酒場独特の臭いは、日本とちっとも変わらない。 ここトムのバーは正面の便所を挟み、右側に、二十メートルの栗の木の大カウンターが、客とそれに注ぐバーテンのこぼした酒を、何十年も吸い込み、色黒々とずっしり重く、ちょっとやそっとの暴力ざたじゃあ、びくともしねえぞ、とでんと居坐っていた。 左側に、どっかの払い下げ風のテーブルが四つ。 あんこのはみ出た、赤ビニール張りの列車の長椅子で囲まれ、足りないところは道で拾った半分壊れた木の椅子で何とかさまになっていた。 夜中の二時半、天井から吊るした大テレビをもうろうとした目の客が見上げている、無論、白黒。 他の客はと見ると、すでに出来上がっていて自分の酒とにらめっこばかりしている。 でっぷり肥った、バーテンのだけは、大きな目をくりくりさせ、一行の入来(にゅうらい)に揉み手で迎えているではないか。 「親分、トムは軍隊のとき日本にいたんでさあ」 「さあ、何でも注文しろ、ここは安いからな」 モップを持った、よいよいの老人が一人、床を、力なく、こすっている。 「汚ねえなあ」 「どんなとこで飲んでも、酒びんの中味は、同じでさあ、ナポレオンでもいきますか」 五百本はあるだろう。 床屋の鏡のように、大きなのを、三枚も張った、トムの後壁の前に、ずらりと、世界の名酒の林がほこりをかぶって立ち並び、時代遅れのレジスターや、茹卵、ソーセージ、がその間に、ちらちら見える。 「ここはアメリカだ、変ったやつがいい」 「それじゃあ、ファイヤーウォーターに決めましょう」 これは、プエルトリカン ラム の一種で、151プルーフ。 アルコール度75パーセントと云う世界最強のやつ、名の如く、火の水、である。 バーでの、貧乏移民たちの喧嘩や、殺しの原因は、たいがい、これの飲み過ぎらしい。 「女はいいとしても、つまみも出ねえのか」 「まかせといてください」 鶴吉の注文で、掃除のジジイが、カウンターの後にひっこむと、汚ない、震える手で、茹でたソーセージにそら豆の煮たのをかけた皿と、下手糞に切ったアメリカンチーズに、クラッカーを、テ−ブルに山積にしていった。 「わあ−、汚ねえ汚ねえ」 鮫助は、慌てて、トイレから逃げ出して来たが、食物の山に、たちまち日を奪われ、 「これで一体、いくらですか、安いんでしょうここは」 とすぐさまパクツキ出すから、皆な、遅れてはなるかと、一斉にかぶりついた。 しかもサイドにビールを注文し、ガブガブやるからたまらない、酒がたちまち、効力を発揮しだしてきた。 「ねえ、苺ちゃんて、可愛いねえ、今晩、ぼくと寝ようよ」 「餃助さん、気味悪いこと云わないで、苺は男よ、だから皆と生活するんじゃあない」 「でも、あんまりほっとくと、本当に、あすこに、キンタマが生えちゃうぜ」 怒って酒をぶっかけようとしたのを豚熊が止め、 「勘弁勘弁、こいつ助平だけど、悪気じゃあないんだ」 「苺、お前、本名あるんだろう」 「親分、私、日本人を捨てたのよ、アメリカ人もよ、人間じゃあないんだから、名前は苺、ストローベリーさ。 男でも女でもないんだから、鮫助、おあいにくさま、セックスは出来ないんだよ」 「うっひひひ」 餃は、ビールビンの底の様に、分厚い眼鏡をはずし、吹き出しながら、そでで、拭いてる。 「私ねえ、ニューヨークって、ちっとも、ビッグ・アップル都市に見えないのよ、夏、いちごを道で売ってるだろう、この街を象徴するのは、あれだよ、真紅に熟れててさ、指で押すと、ぐちゃっと、すぐつぶれて汁を出す、白いアイスクリームに乗せてやると、すごく奇麗、それを、ピンクの舌で、ペロペロなめる黒人の娘、ビル、青空、この色彩のコントラスト、好きだわ、そのうえ、グチョグチョにむし暑くて、皆なが、フーフー汗かいてんの、わきがの人なんか、すごいだろうなあ、臭くて、スズメが気を失って屋根から転げ落ちたり、老人なんか沢山死ぬのよ、ヒートウェーブで、街中、暑さで、労働意欲が減退して、ガキが、ギャアギャア泣き出し、皆なが、どうやって、この街から逃げ出そうかと、そればっかりで頭を一杯にして歩いてんのよ、私、ニューヨークの夏、大好き、そうなった時、もりもり制作意欲わいちゃってさ、素裸で絵描くのよ」 鮫助がニヤツキ出した。 |
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