夜桜

1983
202 x 206 cm
フェルトペン・インク・プラスティック・紙
ニューヨークの次郎長
第30回 コニーアイランド作戦
熟した、大鉄なべに油を垂らし、いきなり、たこ目がふうふう云って洗い、切りそろえてあったねぎ全部を、一気にぶち込んでしまった。
「わあー、それじゃあ違うわよ、最初、肉だってば」
「たこ目、たれ、作らなかったのか、しいたけのだしに、しょう油と味りんの、最初、たれを煮立ててから、次に、ぐを入れるんだろ」
「関東風だって云ったぜ、大阪や京都のふやけた味と違わい、安心して見てろってんだ、何せ、親父譲りなんだから」
石松は、今度は、がばっと、肉をつかむと、一枚ずつはがし、奇麗に、ばりばり音を立てているねぎの上に一面に重ね並べ、その中心に砂糖を、コップ一杯分のせると 一リッター缶から、しよう油をごぼごぼと注ぎ、さっと、ふたをしてしまった。
「五分待つんだ、焦るなよ」
皆な、呆気にとられ、文句の付けようがない。
「早く、茶碗に、生卵を割って、はしを持って、用意、それ!」
ばっとふたを取る、立ち昇る熱い湯気の中に、まだ赤みの残った肉が、うまそうに、皆なを待っているではないか。
「遠慮しているやつは、喰いはぐれるからな」
「きゃー、競争よ」
第一陣が、奇麗に空になると、皆、はしを置き、石松の手順を見詰めながら、大人しく待っている。 はい第二陣、ぱっと、ふたを取る。 ぷんぷんと、懐かしい日本のにおいがロフト一杯に充満。 長時間の極楽流行からお帰りになった方々は、特に食が、進んでるようだ。 胃袋の小さいやつから、次々と落伍して行き、うどんを入れる頃には、やはり、同じ顔触れが、いつまでも、意地汚く、なべを突っついていた。
「疲れたろう牡丹、猿は消えちまったな」
「あやつ、今頃、事の次第を全部、高下駄の久七に、尾ひれを付けて、報告していることだろう。 最も、どのくらい覚えているかな」
「すだれの猿は、次郎長親分に、ほれた、と云ってましたよ」
「ああ見えても女よ、親分、気を付けた方がいいわよ、ああいう女は、思い込んだら、恐しいわよ、きっと」
「ぶはははは」
「どうした鮫、いきなり吹き出しやがって、まだ醒めてねえのか」
「うひひひひ、どうもこうも、昨夜の猿の裸、ひひひ、肉団子の津波が、後から後から、あっしに襲い掛かるんで、もうひでえったら、その間に、大森林や、湖や、洞窟が、黄色になったり、白、ピンク、ああ、怖え、怖え、窒息死するとこだったなあ、でもねえ親分、最高に薬が効いた時は、世の中真暗になり、赤い稲妻がぴかぴかするだけで、後は何にも覚えちゃあいないんです。 時間にしてどのくらいかなあ、一時間、二時間、それとも5分くらいのもんかなあ。 その前後は何とか絵になるんですかねえ。」
「お前、何してたんだか云ってやろうか、よし、猿と二人、ここに並べて、その時、よーく俺から云い聞かしてやる」
「忠助、お前、最初から見てたんだろう、話してみな」
「それが、何が何だか、よく解らないんで、十時間ぐらい見続けていたらしいんですが」
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