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-CONCEPT- OLD記事

アイスクリーム クイーン・モーターサイクル

 Ice cream Queen Motorcycle

1976

27 × 46 × 14 cm

カードボード・アクリル・針金


ニューヨークの次郎長

 

第61回  苺ちゃん、危機一髪

 

「苺ちゃん、あきらめな、マラソンの賞金を稼いで、それから絵描こうなんて、無茶だってば、日曜日まであと三日、世界各地、ドイツ、フランス、イギリス、カナダから、鬼ばばあみてえな、賞金嫁ぎのプロが、ぞくぞく集まってるんだ、オリンピック、マラソン2位なんてのも居るぜ、だけど不思議だ、日本だけは来ねえんだ、きっと金持ちだから、金いらねえんだろう、俺も応援のしがいがねえよ」


「あれ、今朝は走らねえのかい苺、何だい、にやにやしやがってよ」


「おあいにく様、鮫助さん、絵具も、紙も、筆も、ばっちり集まったからねーだ、さあ、これから描き始めるわよ、へだ、犬も歩けば棒に当るよ」


「苺が走れば、絵具にぷつかるって訳か、話してみなって」


「嫌なこった、私の秘密、明日には、このロフト一杯、材料がとどくはず、お生憎(あいにく)さま」


 昨日の朝も苺は走っていた。 お先真暗な、展覧会の心配で、頭がおかしくなる寸前の自分に気付き、ただ、忘れようと、がむしゃらに走っているだけ。

 

 だが。 ウエストブロ-ドウェイ通り、久七の金閣寺の大きなウインドー 一杯に、大瓶に入った、色とりどりの絵具が、ぎっしりと山積、巻き紙や、大筆、小筆が大量に投げ出され、ガラス窓に大きく日本語で、 大廉価(だいれんか)、日本絵画材料各種。 


 となぐり書きしてあるではないか。 ピンクの鉢巻、ランニング、ショートパンツ姿のまま、体から発する蒸気で目がくらみ、大廉価を疑った。 私の欲しいものが全部あるじゃあない。 棒立ちの苺に、店の奥から、すだれの猿が声を掛けて来た。 


「苺さん、お入りよ、あんたが、大前田の栄五郎親分の肝いりで、画廊のこけら落しに、絵を飾るんだって、聞いてるよ、この材料使いな、あんたも一人前の芸術家、門出のお祝いに、全部あげちゃうよ」


 苺は汗と涙が一緒になり、くしゃくしゃな顔になった。 足が震え出し、もう立ってもいられない。 店の椅子に、又へたり込んでしまった。 


 その日の夕方、苺は、次郎長一家に内緒で、ディナーの招待を受け、金閣寺の、のれんをくぐった。 


「やあ、来た、来た、何もないけど食ってくれ、あんたの親分、清水の次郎長ってえ男は、大した度胸だ、着いたばかりで、こんな地獄みてえなニューヨークで、すでに、大層な評判を取っている、大前田の栄五郎大親分が目を付けなすって、口あけの大事な画廊を、清水一家に使ってくれとはなあ、子分の石松をはじめ、鬼吉、鮫助、地下足袋を履いた、植木屋為五郎さんと、皆な、威勢のいいことったらねえやね、猿と毎挽、感心しちまってる始末だ」


「そうよ、あんたみたいな、うぶな可愛い娘は、普通だったら、やれ、パンクだロックだと、たちまち自分を見失い、麻薬に溺れ、変なひもに、しつっこく付きまとわれて、あっと云う間に、どこでどう生きてんのか、行方知れず、なんて話ざらよ、それに引き換え、苺さんは、こんな細腕で、もう絵をたくさん描き、一流画廊で、諸先生方を、大勢集め、大発表にこぎつけるなんて、才能もお有りになるんだろうけど、生れながらに備わった運だねこれは、絵具の事は、何の心配もいらないよ、地下でごろごろしてる、うちの若い者が、明日の朝一番で、グリーンストリート500番地、次郎長さんのロフトに、全部、担ぎ込む手筈が、ちゃんと出来ているんだから」


 そこまで聞くと、苺は、又涙が、込み上げてしまった。 


 「ささ、前祝い、一杯いきな、あんたは女性だ、ラムやテキーラより、このおフランス製の、ボルドー、赤ワインがお似合いだ、赤い苺ちゃんだもんねえ」


 猿は苺にどんどん注ぎ、飲ませてしまった。 


 「うはっはっは、たわいねえスケだ、もう高いびきだ、猿、店の戸締りしちまえ」


 猿は大急ぎで、のれんを取り込み、格子戸、ガラス窓全部に、しっかりかぎを掛け、店の明り全部を消してしまったから、奥の畳の座敷と、料理の散らかった、赤いうるし塗りのテーブルに紫の座布団数枚だけが、薄明りに照らし出されているだけ。 陰気臭い骨董品が、がらんとした暗い店の中に、寂しく点在している。 般若面、笑い面、鬼の面が両壁に並び、仁王像や、恐しい霹の武者像が、無言で不気味に突立ち、これから始まるドラマを聞から凝視していた。 


「ひんむいちまえ、薬は、5時間は、効いてるはず、私、男ですなんて、男装して、ソーホーのし歩いてやがっても、見ろ、このあまめ、正真正銘、立派なスケじゃあねえか」


 哀れ苺は、二人の手に掛かり、たちまち、むき身にされ、座布団の上に投げ出されても、ぐ-すか、大いびきをかいていた。 

 


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