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-CONCEPT- OLD記事

キャンディー・アイランド

 

Candy island

1979

50 x 70 x 25 cm

カードボード・プラスチック

ニューヨークの次郎長

 

第68回 大迫カの三人展


「ああ、消えちまった牡丹ちゃんが懐かしいなあ、今頃ペンシルバニヤの山奥で、全裸で、あの金髪男とゴロゴロニャンニャン、幸せの絶頂か。」

 

そんな一人言を云いながら、猿のむちむちした背中に手を廻し、

 

「ねえ猿ちゃん、一緒にブラジルの密林にでも住まない、可愛がってあげるよ」

 

 しかし、猿は、きっと目を上げると、暖炉を囲んで

 

「清水の次郎長親分、さぞお寂しくなることでしェう、これからは、この猿めに、皆様に代り、親分の身の周りの世話を、申し付けておくんなさい、今日までのすだれの猿の悪業は、きれいさっぱり水に流していただき、次郎長一家のはした女(め)になり、この身を投げ打ち、身を粉にして働きます、どうぞ親分の手元にこのまま置いてやってくださいまし、親分は世界一の真の侠客(きょうかく)男の中の男、絵もうまければ、度胸も天下一品、その大きな胸の中、火と燃える真赤な血潮で、この哀れな 猿めを抱きしめてやっておくんなさいまし」

 

会場で淫売に扮した化粧が、まだよくふき取れてないままのどぎつい猿に、目だけが哀れっぽく、鼻を詰まらせ、涙まで浮べての熱演に一同唖然。大きな胸の割れ目を横から親分にぐいぐい押し付けて行った。苺はたまり兼ね、しなだれ掛かる猿を引っべがし、

 

 「この化け猿、頭冷やしてやろうか」

 

 とバーボングラスに手が掛かったのを鬼吉が押えた。丁度その時、汚ない前掛をした、例の、なめくじ八五郎が、カウンターの裏の床からはい出すと、

 

「やあ皆さん、景気よさそうですねえ」

 

 と、残飯の皿を山積に入れた手おけを重そうに抱え、テーブルに近づいて来た。

 

 「大成功のオープニングだったそうで、これはこれは大前田の大親分まで、こんなむさ苦しいバーでお飲みになるなんて珍しい、猿姐御までも、それに引き換え、見てください、この私の落ちぶれかた、金閣寺がつぶれ、その後は、喰うや喰わず、今はこの店の皿洗いで何とか命をつないでいる 始末で」

 

 次郎長は、さっと、まゆを吊り上げた。

 

 「馬鹿野郎、その若さで、何てえざまだ、なめくじ、手前も絵描きの端くれなら絵で喰え、金が無けりゃあ、便所紙に、手前の糞でも塗りたくって押し売って来い、腰抜けめ」

 

 次郎長は何を思ったか、客を押しのけ、カウンターにわらじのまま跳び乗ってしまった。

 

 「男は、これだぜ!」

 

 蛮声と共に、前をまくり、ふんどしから、一物をつかみ出し端から全員に見せ付けると、よかちん踊り数え歌をスタートしてしまったからたまらない。喜んだのは周囲の客たちで、バーフォーマンスは、ここ芸術家村ソーホーなら、日常茶飯事。週末の昼下りに大通りを歩けば、黒人のガキたちの小遣い銭稼ぎの、路上ブレークダンスから、パントマイムまがいの、自作の波の音のテープ音に合せ路上水泳。それらに混って、病院や保護家庭から抜け出して来た、ものほん狂人まで現れ、パトカーの目立つ今日この頃、裸踊りの一つや二つ、酒のさかなにぴったしなりと、拍手で迎え、時ならぬ大パーティーになってしまった。

 

 経営者は、念入りに化粧をすますと、アパートを出て、向いの自分の酒場を監督するためウエストブロ-ドウェイ通りを渡ろうとして、ひょいと見ると、ウインドーに人だかりがしている、はて何かあったのかと、がたびしのドアーを押し、一歩踏み込んで仰天した。全員総立ち、割れんばかりの歓声と拍手。隣の男は、一緒に手をたたけと、肩をぶつけてくる。糞、又、ちょんまげやくざが暴れ出したんだな。たまり兼ねて一歩踏み出した時、数え歌を終り、踊り手は、席に戻ってしまった。年増で大柄な体を、赤と緑のドレスに包んだマダムのイザベラは、恨めしそうに、次郎長たちのテーブルに近づくと、じつと突っ立ったまま一言も発しないのが、却(かえ)って薄気味悪い。

 

 「席を変えましょうか」

 

 小声で栄五郎が合図すると、次郎長は、さっきの、くしゃくしゃの百ドル札をテーブルに置いた。

 

 一行はキャナル通りに出、ストリップ小屋を素通りし、これ又なじみの、しかし、一段と汚ないトムの酒場に入った。

 

 「これは良い、青春を思い出しますなあ、よし、ここは私のおごりだ、次郎長さん」

 

 この店で全部飲んで行くからと約束して、栄五郎は、ナポレオン二本を買い、テーブルに置き、

 

 「お若いですなあ清水の、裸踊りとはすごかった、さあ皆様、もう一度乾杯と行きましょう」



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