牛ちゃんのボクシングペインティング
牛ちゃんがIse Cultural
Foundationでボクシングペインティングと講演を行なった。6時から始まったレセプションには続々と人が訪れ、身動きが取り難いまでたくさん詰め掛けた。その人の間を休みなく、動き回り、話しまわるのが牛ちゃんこと篠原有司男さんだ。
ボクシングペインティングは1959年、取材記者に「何かやってくれ。」と言われて、即座にTシャツを丸めてインクに浸し紙に向かってパンチしたのが始まり。「ボクシング以外のスポーツを使うことは考えないのか。」という質問に対してはキッパリ「No」と言っていた。 あの時思いつきで始まり、40年来の作品なのだから当然だ。 突然、偶然の発想を大事にしているとも言える。
3秒相手の顔を凝視して描く似顔絵、ボクシングペインティングの勢いに乗って似顔絵にパンチを加えるのも「誰でもピカソ」出演時に始まり、今回も建畠氏の似顔絵の上にパンチを加えていた。
建畠氏の顔を3秒間見つめるギュウちゃん
「早く、美しく、リズミカルに」
講演で聞かれたこの牛ちゃんの制作に掛けるモットーは、今回ボクシングペインティングで披露された通りだ。 ロシェンバーグのイミテーションを会場で作ったときも、コカコーラ瓶や天使の羽をあっという間にあざやかに付けて見せた。
また、会場に展示してあったロブスター・ライダー(立体作品)やインカ帝国からのインスピレーション・ドローイングも、物凄い集中力とスピードで制作されたものなのだ。
今回のテーマである「インカシリーズ」を講演前夜ぎりぎりまで制作するギュウちゃん
付け加えると、ロブスター・ライダーは本物のロブスターの殻、ダンボール、各種部品などを巧妙に接着し、荒々しく見えながら細部から迫力が伝わってくる作品だ。
「インカシリーズの彫刻、ドクロとオニヤンマ」 ドクロの頭にオニヤンマトンボが交尾している
(ドクロの表面にロブスターの殻を10匹ほど貼り付けてある)
さて「早く、美しく、リズミカルに」は牛ちゃんの会話、生活、つまり生き方全般にも一貫している。 建畠氏との対話では真剣な意見も冗談も次々に言葉を繋ぎ、話し通した。 リズムあるセリフも幾つか聞かれた。
例を挙げると、
「アートはつまらない」理由として「金はもうからない、女房は文句言う、子供にはやめてくれと言われる」
ボクシングペインティングを思い立った経緯について、
「もっと早く、もっと考えないで、もっとショッキングなアートを」
何故アメリカへ移住したかとうい質問に対して、
「No museum, No collector, No hope」
牛ちゃんの話を聞いていると、つい惹きこまれてしまう。
20代で日本の美術界に旋風を巻き起こし、ロックフェラー財団からの援助で渡米、日本への帰国を拒否しニューヨークの地でアーティストとして生きてきた。
「アートはつまらないから、だから、おもしろくしなきゃいけないからやるんだ」
何故アートなのか、
「デーモンに引っ張られてるから」
凄い集中力、エネルギー、命を掛けた真剣さで創られた牛ちゃんの作品は、生命力に満ち溢れている。
秀島美弥