ホアン・ミロ展
Joan Miro: Painting and Anti-Painting 1927-1937
11/2,2008 ~ 1/12,2009
MoMA
スペインの画家、ホアン・ミロ(1893~1983)の30代から40代にかけての作品を紹介する展覧会。本展の前に終了したダリ展に続きスペインのアーティストを紹介するものだが、単なる作品の紹介でなく、ミロのアーティストとしての活動が当時の時代や美術の動向とどのようにかかわり、またどのような独自性があったのかを探ろうとするもの。本展の特徴は、1927年から1937年と時代を明確に区切っていること。作品を、時代ごとあるいはミロが試行した技法や主題から12のテーマに沿って展示した。
1927年、ミロは「ペインティングを暗殺したい」と主張し、伝統的な絵画の工程とは全く異なる活動をする。その間のシリーズが、下塗りなしのキャンバス地あるいは、下地のジェッソを色面の一部として取り入れたもの。その後は、サンドペーパーやアルミを用いたコラージュやファウンド・オブジェクトによるアッセンブラージュに展開していく。
本展で最後を飾ったのが、1937年の作品“Still Life with Old Shoe(古ぼけた靴の静物)”。その前年10月、ミロはスペイン内戦激化のため母国を離れパリに赴く。ヨーロッパにおいても大戦への不安が色濃くなる時期、非常な危機感の中でミロが制作した作品だという。絵画の破壊を主張しながら、ミロのひとつの到達点が実物からの絵画“Still Life with Old Shoe”である。既成の通念を否定・破壊した当時の前衛的な動きとして、シュールレアリズムやダダがあげられるが、ペインティングという行為から離れたそれらの動きと絵画に戻ったミロとの違いが、本展では強調された。
その後のミロの作品はどんどん抽象化していく。本展のカタログは、ミロのアーティストとしての行為がペインティングにおける対立要素の探求:写実と抽象、絵画への熟練と美学的破壊とし、その中核となった作品が“Still Life with Old Shoe”であると結んでいる。モマでは、ミロの大きな回顧展は今回で5回目であるというが、新しい視点を探ろうとするキュレーターの姿勢を表現した展覧会として興味深かった。(Yoko Yamazaki)