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-CONCEPT-OLD記事

スイスの巨匠ジーン・エティエン・リオタール(1702−1789)

Jean-Étienne Liotard: Swiss Master

6/13 — 9/17,2006

The Frick Collection

 

ジュネーヴ生まれのリオタールは,パステル画、細密画で名を馳せ“真実の画家”とも呼ばれた18世紀のアーティスト。パリ,ウィーン、ロンドン、ローマなど、当時のヨーロッパの主要都市をほとんど訪れ、生前は国際的に名の知られたアーティストだった。現在ではほとんど無名に近く,歴史の中に埋もれてしまったかのようなリオタールだが、フリックのキュレーターチームが彼の業績と生涯を再検証した。


 

Jean-Étienne Liotard (1702–1789)

Archduchess Marie-Antoinette of Austria (1755–1793), 1762

Black chalk, graphite pencil, watercolor, and pastel on very thin white laid paper, heightened with color on the verso

31.1 x 24.9 cm (12 1/4 x 9 13/16 in.)

Musées d’Art et d’Histoire, Cabinet des Dessins

Photo: Bettina Jacot-Descombes

 

アーティストとしてのリオタールの転機は、36歳の頃、イギリスの大陸巡遊旅行者達とともにコンスタンチノープル(現在のイスタンブール)を訪れた時にやってきた。ヨーロッパにとって当時のトルコは中国と同じくらい遠く神秘的な国だったという。リオタールは異国の地に心底魅せられ,同行者達が帰国してからもトルコに4年間滞在している。帰国してからは、当時のヨーロッパでは珍しかった長い口ひげ(トルコ風)を蓄えるようになり、各国の都市訪問の際にはかならずトルコのローブを着用したという。1743年,ウィーンに訪れた際もしかり。リオタールの一見奇異な様相は,アーティストとして十分なプロモーションにもなったのだろうか、王妃マリア・テレジアは彼の生涯のパトロンとなり、彼女自身もトルコの衣装を見にまとい彼の前にポーズをとったと言われている。王妃は旅をするごとリオタールの描いた王妃の12人の王子、王女像を携帯したと言う。肖像画の中には7歳のマリー・アントーワネットの肖像画も含まれ、歴史の表舞台に登場する人々とリオタールには確かな交友があったことがうかがわれる。(彼は、フランス革命勃発年に亡くなっている。)


 

Jean-Étienne Liotard (1702–1789)

Liotard Laughing, c. 1770

Oil on canvas

84 x 74 cm (33 1/16 x 29 1/8 in.)

Musées d’Art et d’Histoire, Département des Beaux-Arts

Photo: Bettina Jacot-Descombes

 

長かった口ひげをリオタールが剃るのは54歳で結婚する時。その折の姿を自画像に残している。背景のカーテンは、絵画の写実性の優越を競ったギリシャのパラウシスとゼウクシス(Parrhasius, Zeuxis)の逸話*を示唆するもので、あくまでも自分の目に忠実にというリオタールの写実への信念を暗示するものである。しかもその信念を前歯を欠いた奇妙な笑みでコミカルに表現する。そこに、現代にも通じるユーモアのセンスを感じる。


Jean-Étienne Liotard (1702–1789)

Trompe l’Oeil, 1771

Oil on silk transferred to canvas

23.3 x 32.3 cm (9 3/8 x 12 ¾ in.)

The Frick Collection, Bequeathed by Lore Heinemann in memory of her husband, Dr. Rudolph J. Heinemann, 1997

Photo: Michael Bodycomb

 

もともとフリックは、リオタールの小さなトロンプルイユ(だまし絵)を所蔵していたが,その作品に触発されて今回の企画が始まったと言う。アーティストとして転機となったトルコを主題にした作品から晩年の作品までをそろえ、小さいながら一人のアーティストの生涯を掘り下げその人間性にも迫った興味深い展覧会。(Yoko Yamazaki)

 

 

ゼウクシスとパラウシスは、共に古代ギリシャの画家で、その描写力を競った。ゼウクシスが描いた葡萄には鳥がついばみに来るほど。勝利を確信したゼウクシスは、パラウシスにもったいぶらずに早く作品を公開しろ、カーテンの様な覆いを早く取れと促す。パラシウスが描いたものは,実はそのカーテンで、その写実性にゼウクシスはまんまとだまされたという話。

 

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