バルセロナとモダニティー:ガウディからダリ展
Barcelona and Modernity: Gaudí to Dalí
3/7−6/3、2007
The Metropolitan Museum of Art
スペインの東北部カタルニアは、中世以来独特の文化を保持した地方で、19世紀末にはスペイン国内でその独自の伝統を再評価するカタルニア・ルネサンスと呼ばれる政治的文化的な動きが起こる。その中心地であるバルセロナは、スペインを代表する文化都市で、1888年には万博も開催された。本展はバルセロナにおける万博開催年から1939年にフランコ将軍率いるファシズムに政権を掌握されるまでの時代を、建築やデザインを含む様々な美術作品に絡めて紹介するもの。
Lluís Bracons (1892-1961) and Jaume Busquets (1903-1968)
Port de Barcelona, 1925
Lacquered wood
60 5/8 x 60 5/8 in. (154 x 154 cm)
Artur Ramon Collection, Barcelona
Pablo Picasso (1881-1973)
Interior of Els Quatre Gats, 1899
Oil on canvas
16 1/8 x 11 in. (41 x 28 cm)
Collection of Michael and Henry Jaglom
© Estate of Pablo Picasso/Artists Rights Society (ARS), New York
中でも目を引くのはやはりパブロ・ピカソ(1881−1973)。ピカソは、スペインの南に位置するマラガという港町で万博の翌年に生まれるが、やがてバルセロナにやってくる。アーティスト達が集ったのは、クワトロ・ガッツ(4匹の猫)と呼ばれたカフェで、そこでは展覧会はもちろん詩の朗読や様々なパフーマンスが繰り広げられた。18歳にしてその常連だったピカソがその他の常連アーティストを描いた水彩画やカフェの様子を描いた油彩画が紹介されている。ピカソはやがてパリに移るが、このバルセロナ生活はピカソに様々な影響を与えたと思われる。例えば、ピカソは「青の時代」と呼ばれる憂愁に満ちた貧民の生活をパリで描くが、本展では、その社会的矛盾の描写がバルセロナの画家達に共通したものであるとし、ピカソに先立つ世代でジプシーを描いたバルセロナの画家イジドレ・ノネル(Isidre Nonell1873−1911)ら社会派のアーティストを紹介している。
Antoni Gaudí (1852–1926)
Double Folding Screen from Casa Milà, 1909
Oak, metal, and frosted glass
78 ½ x 160 in. (190 x 400 cm)
Private Collection, courtesy the Allan Stone Gallery, New York
Salvador Dalí (1904-1989)
The Dream, 1931
Oil on canvas
41 3/8 x 28 3/8 in. (105 x 74.5 cm)
The Cleveland Museum of Art, John L. Severence Fund
© Salvador Dalí, Foundation Gala-Salvador Dalí / Artists Rights Society (ARS), New York
ミロあり、ダリあり、ガウディあり、そしてバルセロナ・チェアーあり。多様な展示作品からは、フランスやドイツ等当時のヨーロッパ近隣諸国の前衛運動とカタルニア文化の影響関係が検証できる。
時代性をつぶさに反映するものとして印象的だったのは、本展最後のセクションにある1937年パリ万博のためのスペイン共和国パビリオンのプロジェクト。スペインは1931年に共和国となるが、共和制政府は当時ドイツのナチ、イタリアのファシズムと提携したフランコとの内戦(1936−39)のさなかで、万博参加は大英断だった。実は、パビリオン建設には当時内戦に不干渉提携を貫くヨーロッパ諸国へスペイン救済を呼びかける大義名分があり、国を挙げてのプロジェクトだった。(スペイン救済はフランコ側のキャンペーンとしても使われているキーワードで、展示会場では両者のポスターが並べて展示され比較検証できる。)
Joan Miró (1893-1983)
Aidez l’Espagne, 1937
Color pochoir on paper
12 5/8 x 19 ¾ in. (32.1 x 50.2 cm)
The Metropolitan Museum of Art, New York
The Pierre and Maria-Gaetana Matisse Collection, 2002 (2002.456.109)
© Successió Miró/Artist Rights Society (ARS) New York/ADAGP, Paris
このパビリオンに際して、記念碑的な作品を制作したのが当時パリにいたピカソである。パビリオンのために彼へ作品依頼が入るのは1937年1月のこと。当初ピカソは政治的な内容には乗り気ではなく、独自のテーマを考えていたようだ。ところが4月スペイン北部の小さな町ゲルニカがドイツから空襲をうけそのほとんどが消失すると言う事件が起こる。パリの新聞は4日間連続でその悲惨な状況を報道したと言う。ピカソは、急遽テーマを変更し縦約3.5m、横約7.8mの巨大絵画に取り組む。そして完成したのがピカソの「ゲルニカ」である。万博開催は7月。その一ヶ月前には作品は完成し、パビリオンに展示された。パビリオン自体わずか4ヶ月で完成したと言う。残念ながら本展で「ゲルニカ」の実物を見ることはできない。しかし、パビリオンの模型やその他様々な記録写真より万博にかけた人々の意気込みを感じることができる。
クリーブランド美術館、メトロポリタン美術館、カタルニア国立美術館(バルセロナ)の共同企画。メトロポリタンの後は、クリーブランド美術館にも巡回予定。(Yoko
Yamazaki)