モネのロンドン(アーティスト達によるテムズ河の描写:1859-1914)展
Monet’s London: Artists’ Reflections on the Themes, 1859- 1914
5/27−9/4、2005
ブルックリン美術館
フランスの印象派を代表する画家モネ(1840−1926)は、1899年から1904年にかけてロンドンをテーマに作品を制作している。これは、ロンドンシリーズと呼ばれ、計100点近くに及ぶという。内36点 が1904年にパリの画廊で発表され、モネは多くの賞賛を浴びた。本展は、モネのロンドンシリーズを中心としながら、様々なアーティスト達の絵画・ドローイング・写真・版画 を展示し、19世紀半ばから20世紀初頭にかけてのロンドンというテーマを検証する もの。
ジェームズ・ティソ、テムズ河
James Tissot (French, 1836-1902)
The Thames
1876
Oil on canvas
73 x 107.9 cm.
Wakefield Art Gallery, Wakefield, England
WAK 41966
19世紀といえば、大英帝国の最盛期。その首都ロンドンはヨーロッパで最先端をゆく大産業都市だった。中でも造船場など様々な工場が建ち並ぶテムズ河の埠頭付近の光景は、発展する近代社会の象徴のようでもあったろう。ジェームズ・ティソの絵画は、そんな近代都市の余暇シーン(テムズ河クルーズ)を描いたもの。当時のフランスはと言えば、1870年にプロシア・フランス戦争が勃発し、またパリ・コミューンによる混乱期。モネとほぼ同世代のカミーユ・ピサロ(1830−1903)をはじめとする多くのアーティスト達がフランスからロンドンに避難している。実際モネの最初のロンドン体験も1870−71年。流行的なテーマともなった都市ロンドンには、そんな歴史が絡む。
クロード・モネ、英国国会:陽光の印象
Claude Monet (French, 1840-1926)
Houses of Parliament, Effect of Sunlight,
1903
Oil on canvas
81.3 x 92.1 cm.
Brooklyn Museum
Bequest of Grace Underwood Barton
64.48.1
モネは、1899から1901年にかけて三度ロンドンに足を運んでいる。テムズ河岸のサボイホテルに滞在し、そのバルコニーからウオータールー橋やチャリングクロス橋を望み、その終日の光景を描いたという。英国国会も描いているが、これはサボイからの構図が気に入らなかったようで、特別な許可をもらって対岸の病院から描いたという。ロンドンにて忙しく習作を繰り返したモネは、フランスで待つ夫人にあて、“今日はこれまで、光は待ってくれないから。”といった内容の手紙を書いている。作品の完成は、習作をもとにフランスに戻り数年かけて行なわれたようで、モネはまさに印象を絵画に描き残した画家だったようだ。
アンドレ・ドラン、ロンドン橋
André Derain (French, 1880-1954)
London Bridge
1906
Oil on canvas
66.08 x 99.12 cm.
Museum of Modern Art, New York
Gift of Mr. and Mrs. Charles Zadok
195.1952
本展には、モネに先駆けロンドンに魅せられたアメリカ人画家ジェイムズ・アボット・マクニール・ホイッスラー(1834−1903)のコーナーも設けられている。モネ以前、モネ以降といった切り口が多岐に渡っており、展覧会全体の構成はタイトルである「モネのロンドン」とはややことなる印象をうける。しかし、歴史的社会的背景を知り、画家達の相互関係を見ていくことは、作品への関心を深めるきっかけにもなる。例えば、モネのロンドンシリーズ以降の例としてあげられたフォーヴィスト(野獣主義)のアンドレ・ドラン(1880−1954)。彼もテムズの船着き場付近の光景を描 いているが、これはモネのロンドンシリーズのパリでの成功を知る画商アンブローゼ・ヴォラールに勧められてのことだった。流行の中にもそれぞれの美学を追究した画家達の歴史が興味深い。
(Yoko Yamazaki)