New Museum of Contemporary Art
(ニュー・ミュージアム)
住所 583 Broadway (Houston & Prince ST.), NYC
電話 (212)219-1222
火~日 12:00P.M.~6:00P.M.
木 12:00P.M.~8:00P.M.
月 休館
入場料 一般 6ドル
Hélio Oiticica: Quasi-Cinemas
Through October 13, 2002
エリオ・オイティシィカ(Hélio Oiticica)は現在でも最も優れた60、70年代のインスタレーション・アーティストだ。
エリオ・オイティシィカは50年代から1970年に掛けてブラジル国内で代表的なアーティストとして活動。70年から80年に掛けてニューヨークに在住したオイティシィカは、クリスティー・ストリートとバワリー・ストリートの自宅ロフト自体を作品として友人達に開放した。1960年代からオイティシィカは伝統的な絵画や彫刻の技法から離れたParangolés(「自由スタイル制作」)に取り組んでいた。Penetrables(「進入し得るもの」)布や箱をふんだんに使った環境のことをいい、実際に中に入り込め、装着し、居住できる。「芸術制作には鑑賞者が関わらなくてはならない。」というのが作家のポリシーだった。
Helio Oiticica: Quasi-Cinemas
Cosmococa1: Trashicape
©New Museum of Contemporary Art
今回ニューミュージアムで発表されたのは「自由スタイル制作」で「進入し得るもの」、Quasi-Cinemas(「映画らしきもの」)シリーズである。スライド映写と音響を組み合わせた映画的環境を、調えられた環境と指示の元で鑑賞する。Cosomococa 1: Trashiscapesのように大画面のスライドを見学し心地の良いブアジル音楽を聴きながら、床に敷かれたマットレスの上でマネキュアを塗る。Cosmococa 5: Hendrix-Warではブラジル音楽で満たされた部屋に吊るされたハンモックに寝転がって、四方の壁に斜めに映写されたスライドを鑑賞する。どちらの部屋でも来訪者は枕投げをしたり、ごろんと寝そべりながら友達とおしゃべりしたりしてくつろいでいる様子。寛ぐように計算されて本当にくつろげるインスタレーションはめずらしい。美術展で、しかめっ面の代わりに人々のはしゃいだ姿を見るのは楽しい。
Helio Oiticica: Quasi-Cinemas
Cosmococa 5: Hendrix-War
エリオ・オイティシィカ早期の作品は、社会的なテーマが前面に出た幾何学的な立体作品だった。若くしてブラジルアートの中心的存在となり、1971年にグッゲンハイム美術館の奨学金を受けニューヨークに移住。しかしMoMAでの現代美術展以外、ニューヨークの美術館やギャラリーで作品を発表することはほとんどなかった。「ブラジルで浴びたような敬愛の眼差しを、ここニューヨークで僕は一生浴びることがないだろう。」ロフトに閉じこもる生活を続けたオイティシィカはヘロインに嵌っていった。「作品を創るための薬」と呼びながら「やめたほうがいいのは分かっている。」と友人に話していた。1980年にブラジルへ帰国したが一年も経たないうちに亡くなった。
作家死後もブラジル国外での著名度は低かったが、1992年にThe Galerie Nationale du Jeu de Paumeでの大々的な回顧展をきっかけに、MoMA、グーゲンハイムもオイティシィカを取り上げ、今回のニューミュージアムでのアメリカ初回顧展に至った。
都市ニューヨークとアーティストの関係に着目しても興味深い展覧会である。
Miya Hideshima