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-CONCEPT-OLD記事

ジャパニーズ・ゴースト・ミート・アメリカンヒーロー

Japanese Ghost Meet American Hero 

 

1983

 

200 x 576  cm

 

カートボード・アクリル

 

ニューヨークの次郎長

 

第44回  増川の仙右衛門

「あ、そう、もう一度一階まで駆け下りて行って入口のかぎ、内側からしっかり掛け直して、二、三度引っぱって見て、閉ったか確かめんのよ、物騒なんだから、この辺は」


「大丈夫だった、黒くてでかいのが入って来てなかったでしょうね、二階は誰も居ないし、知らないやつがいたらこの三階にしか用事のないやつ、ガンかナイフを持った強盗なんだからね、大丈夫だった、オーケー、開けてあげる」


 四つのポリスロックをガチャガチャ外し、やっと中に入れてやったが、仙右衛門は、無灯の暗い階段から飛び込んだ、明るい大空間に、めまいがして棒立ちのまま。 


「うわ、広いお部屋でございますな、となると、ここはビルの三階全部を占領、御使用になっているんで、これでお家賃はいか程で、電気、ガスなどを含めると、全体で月月の出費は、さぞかしお高いんでしょうねえ」


「知らないわよ私、次郎長さんに聞いて、鶴さんが細かいのよ、鶴吉さんは、私に親切だったわ、塩水を汲んで、何度も頭にかけて火を消してくれたんだもん、ああ、ああ」


 たこ目は、又、しくしく始まってしまった。 


「一体どうしたんです、何が起こったんですか、ぜひ聞かせてください、記事にしたいんです、ニューヨークの次郎長親分に関係のある事だったら、何でも話していただけませんか」


 国際男の仙右衛門の手には、すでに、紙と鉛筆が操られ、自分の仕事のにおいをかぎつけた猟犬のように、目をむき出して、たこ目に追って行った。 ガランとしたロフトに、ニ人っきり、笛や太鼓や爆竹の音が、昼の光と共に窓から流れ込んでいた。 

「これ見てよ!」


 たこ目は、ぱっと、かぶっていた、タオルを床にたたきつけた。 


「げえー!」

 

 


 海岸に、大きな人垣の環が出来、皆、上空を見詰めている、最初、小豆の様だった、女性を混じえた三人のスカイダイバーが、手をつないで、海岸に描かれた環の中心に向って降下して来た。

 

 見る見る近づき、はっと息を飲む瞬間、女神の手で引っばり出された様に、落下傘が開き、わっと喚声が上る。 大きな星条旗を描いた、くらげだ。 ゆらゆら着地、又大拍手。 ミス・コニーアイランドのパレードも始まり、ホットドッグ喰い競争に、巨漢たちが集合。 海岸東端の水族館でも、ニ匹の白鯨の曲芸にも喚声と拍手が集中している。 


 石松たちが下見に来た頃の寂(さび)れ方とは打って変った今日のこの活気。 後から後から、地下鉄の終点、コニーアイランド海岸遊園地駅から、どっと吐き出されてくる、ゴム草履ばきの親子連れ、両手に目一杯子供を引き連れ、ソーダと食物を詰め込んだアイスボックスを抱え、三方向に散らばり吸い込まれて行く。 一つは海水浴、次が、乗物と見せ物小屋、最後が、云わずと知れた世界一でかい立ち喰いの店。 


「あんた日本人でしょう、映画で知ってる、ねえ、侍クリーピーハウスってどこよ」


 鬼吉を捕えて話し掛けてる十歳ぐらいの可愛娘ちゃん、兄弟柿嫁が、何と、上に八人、下に四人の計十三人、けなげにも弟たち三人の子守りも兼ね、遊び慣れたこの遊園地で、何か変った極向を物色中なのだ。 親はどこ、なんて聞く方がやぼ。 立ち喰い店の黒山の人垣をかき分け、ソーダの大カップを片手に、たら腹ばくついているに決まっている。 

 

 紙皿に、五、六本、ホットドッグを乗せた大男の黒人が口にも一本喰わえ、マスタードとケチャップをたっぷりその上にたれ流し、売場から離れる。 はい次の方、ネックストの呼び声、順序よく行列を作り、注文した皿を受け取り、出て行く。 このホットドッグの列でも五ヶ所。 他にカニ、エビ、トリモモ、イカ、イモの列、どれも満員、受け取った皿を頭上にかざし子供を血眼になって探している。

 

 揚げ物ぐらい簡単で、回転の早い料理は他に無い。 手づかみで喰ったあとの紙皿、フォークは、横のゴミ箱に放り込めばお終い。 ここは何でも紙皿だ。 生のはまぐりから、ゆでて、バターを筆でたっぷり塗ったトウモロコシでも、皿が水や油で穴が開く頃には、乗ってた物は、すでに胃袋に納まってるはず。

 

 だから、クーラーのよく効いた、テーブルクロスの掛ったレストランで、ナイフとフォークで、ワインをなめながら景色を眺めようなんて考えは捨てなければ付き合えない。 


「クリーピーハウスって何だ」

 

鬼吉は鮫に聞いた。 


「俺たちが作ったお化け屋敷のことさ、十歳だって、駄目だ、怖くて腰を抜かすよ、弟はもっと小さいから、失神して救急車で帰らなければならなくなるぜ」


「心配ないわよ、ママは駄目だと見せないんだ、内緒で行こうよ」


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