ピンク・ダイナソナーズ
The Pink Dinosaurs
1979
180" x 30" x 15"
カードボード
ワシントンスクエア
ニューヨークの次郎長
第49回
たこ目、失恋す
刺身、フライ、煮込みの三種類の料理にされちまったえいを、ベニヤ板を、テーブルに釘付けにして作った大テーブル一杯に並べ、酒盛りが始まったところに、親分たち一行も帰って来た。
「おう、馬鹿に豪勢だな、どうしたんだ今日は」
「へえ、国際男が、お近付きのしるしに、酒を用意したもんで、肴は、桟橋で獲れたやつで」
「親分さん、おしかりを受けるのは覚悟でございますが、いかがでしょう、この三ぴんの仙右衛門を、このロフトに二週間、泊めていただくわけにはまいりませんでしょうか、次郎長一家の人人には、人間の血が、どっぷり流れているみたいに思えます、私ら、宮仕えの長い人間には味わえねえものがあるみていで、何かお云い付けくだされば、この増川仙右衛門、命を張って働く覚悟です、何とぞ、いかがなもんでしょう」
「ああ、構わねえよ、蚕棚に空きがあるだろう、マットレスは道から拾って来な、なるべく奇麗なやつをたのむぜ、こないだも、ダニが出て大騒ぎしたばっかりだからな」
「へえ、私、そこらで安いのを見繕って、買って参りやす、アップタウンのホテルを予約してありましたが、取り止め、代りと云うのもなんですが、浮いたホテル代、食費などを含めて、些少(さしょう)ですが何かの足しにでも」
「会計は鶴吉だ」
「ああ、遠慮なくもらっとくよ、ほう、千ドルとはすげえなあ」
ベニヤ板テーブルの下は、一升瓶がずらっと揃い、何やかや、男物がすでにしてあり、たこ目が相変らず、かいがいしく立ち働いていた。
「化け物屋敷の完成祝いとでもしますか」
「そうよ、アメリカさんも、私たちも、今日は大変な記念日なんだからねえ、親分さん」
「独立記念日に化け物記念日か、わっはっは」
「ところで石松さん、お化け屋敷をあそこまでにするには、大変な御苦労があったんでしょう、仙右衛門に聞かせてやっておくんなさい」
「苦労したのは、このたこ目よ! 自分の頭を、カチカチ山にしちまってよ、二ヶ月前の今日みたいないいお天気の日よ、あそこへ下見に出掛けたんだ、何もねえ原っぱに一軒、半分焼けたあばら屋が、最初だった」
仙さんは、テープレコーダーを、料理のすき間に置き、待ち構えた。
「小屋の天井と床を張り、夜露がしのげるまでに一週間、その間、俺たちは野宿した」
「野宿って、皆様、女性の方たちもですか」
「そうよ、海岸の砂浜に、シャベルで防空壕を掘ったのよ、一米の深さで、畳六杖ぐらいのやつだ、シートを四隅の木にくくり付け、天井代り、その中で、寝袋で寝たんだ、飯はバーべキューばかり、魚、鶏、ソーセージ、野菜、山岳部のキャンプと思えば、何でもねえよ」
「でもポリスが文句を云うでしょう」
ここで鶴吉が説明した。
「ニューヨークには宿無しが、何千人もいるんだぜ、ガード下やビルの間に段ボール箱などを敷いて寝てる、狭いアパートで家族に、いびられるよりもと、外に飛び出したやつもいれば、アル中患者だって大勢いる、冬になると、暖かいフロリダに移住したりで、連中、優雅なもんよ、変ったのじゃあ、芸術家の一人で、一年間、絶対に屋内(おくない)に入らねえ、と願(がん)をかけ、ヌンチャクを懐に、道路に住んでいる、パフォーマンス・アーティストが居るよ」
「砂浜ホテルの最後の日だったっけなあ、たこ目」
「そうよ、あの日は、朝から、すばらしかったのにねえ」
一週間、なたや、チェンソーを振り回し、石松軍団必死の大工のかいあって、曲りなりにも、一軒の、入口にちゃんと、かぎの掛かる建物が出現、床も張れ、大量の黒ペンキが、足掛と外壁全部に、たっぷり塗りたくられ、異様な感じの一軒家になった。
「わっはっは」
石松は上機嫌。
「さあ明日から中味だ、おどろ、おどろの化け物を、たくさんこさえるんだ、苺の出番だなあ、怪談本、たくさん持ってるんだろう」