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-CONCEPT-OLD記事

オペラ座の前に大蛇が出た

 

1991

216 × 366 (122×3) cm

アクリル・キャンバス   


ニューヨークの次郎長

 

第63回  苺ちゃん、危機一髪

 

 朝、鶴吉は、ロフトに顔を出し、次郎長に、こう告げた。 

 

「親分、とうとう、来るものが来ちまいましたよ、久七のやつ、消防署とポリスに締め上げられ、ビザ切れで遊んでいるやつが、グリーンストリート五百番地に、大勢居ると吐いちまったんでさ
あ」

 

「すると、どういうことになるんでえ、あの連中」

 

「もうすぐ、ダウンタウンの移民局から呼び出し状が来ます、簡単な裁判があって、まあ全員助かりません、弁護士も、滞在期間延長ぐらい出来ても、期限つき、国外退去、潜ることも出来ますが、そうすると、表立って名前は出せません、美術展はおろか、働こうにも、雇う側が、びびりますからねえ、三年、五年、いや十年間も、この国のどこかに潜り通せれば、今度は逆に、永住権権が取れますが、途中で捕まれば、本国へ、強制送還、日本の領事館が動き出し、コンピューターに名前が載ってしまい、二度と、アメリカの地は住めません、移民局のビルの13階に、ジェイルがあり、一旦、このおりの中に入れられ、飛行機の都合待ちで、準備が出来次第、日本に出発、この時は、手錠を掛けられ、腰にひもが付けられ、刑事さんと一緒に搭乗ですから、お客もびっくりします、もっとも刑事は、途中、アンカレッジでバイバイしちゃいますから、成田は大手を振って出られるし、田舎までのキップ代金も、全部、国が払いますから、ただで帰国と云うわけですが」

 

「国外退去期限はいつだ」

 

「私の勘では、来年の1月早々(そうそう)ぐらい」

 

「久七の方は、あの後、どうなった」

 

「ぶうははは」

 

鶴吉は久し振りに、大声で笑った。 

 

「おしゃかですね、完全に、火事騒ぎで、市のビルディング検査官に踏み込まれ、金閣寺の工事の時、電気の配線から、ガス、消火設備などすペて、ライセンス無しの、素人大工工事であったことがばれ、莫大な罰金、喰いますね、その上、ビザ無し流行者の雇用、税金滞納、不正品輸入の罪で、もう立ち直れませんよ、その上、我我が訴えれば、苺の件、婦女誘拐の罪も加わり、監獄行き間違いありませんね、うははは、ひひひひ」

 

「そうかい、高下駄の久七親分も、気の毒だなあ」

 

 アメリカでは、十月三十一日の夜、すなわち、冬の季節に入る前日、国中の悪魔、ドラキュラや、狼男、フランケンシュタインなどが、ペンシルバニア州の山奥に集合、パーティーを開くと云う。 言い伝えにひっかけ、この夜に、ハローウィン仮装お化けパレードを行い、子供たちと、街頭で大騒ぎをする習慣がある。 ダウンタウンでは、グリニッチビレッジ通りを、魔女、ウィッチにふんした、三十人ぐらいの、黒つば帽をかぶった、黒ずくめの女性集団を中心に、野原の長い、すすきの束を担いだり、紙袋に穴を明け、頭にかぶりのぞいてるやつ、水兵や、警官の制服姿の仮装まで現れ、まぎらわしい。 子供たちは、トリック・オア・トリートと叫び、御近所の商店街を、一軒一軒、しらみつぶしに押入り、キャンデーやチョコレート、小銭まで、持参の大袋に入れてもらう。 たまに、俺たちの国には、そんな習慣なかったぜ、と、チビッコギャングを入口で、シャットアウトしている、こういう祭を知らない、新米移民野郎には、翌日、石が、ウインドーのガラスにたたきつけられる羽目になるから、恐しいのは、御近所付き合いと云うもの。

 

 この日、十月三十一日は、大前田栄五郎画廊でも、苺、石松、それに親分清水の次郎長の傑作芸術作品の発表日、オープニングデーであった。 丁度、土曜日に当ったこの日は、雲一つ無い、秋晴れ、紅葉が舞い、ソーホー地区も、久々の大賑わい。

 

 観光バスの停車する、表通りは、道化師まで、風船を手に、忍者や、バイクに仮装した子連れを笑わせ、画廊巡りの団体が、ぞろぞろ、道に張り出したレストランテーブルは満員、ほこりなど、へともせず、大皿のランチをワインと一緒に、真赤な口紅の大口に、ねじ込んでいる。 ハイ、とかキャーとかその目の前で抱き合いキスする二人が、通行の流れを邪魔したりで、もう大変な、秋日和である。 

 


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