• N
  • TCg^c
  • vCoV[|V[
  • [
-CONCEPT-OLD記事

ハイウエイパトロール

 

Highway Patrol

1980

25 x 35 x 40 cm

カードボード・プラスチック

ニューヨークの次郎長

 

第65回 大迫カの三人展


「親分、大変だ」


「又、トラブルかい鶴吉、今度は何だ」

 

 秋晴れの10月31日、大前田栄五郎画廊、晴れの、こけら落し、オープニングパーティーは、開始、午後4時。 

 

 すごい前評判で、ロフトには、三人展に関する問い合せ。 三人の略歴、国籍、東京では有名だったか。 ニーヨークに何年住んでいるのか。 写真。 インタービューの申し込みなどで、電話は鳴りっ放し、たこ目は、朝から汗だくの態。 晴れ舞台とばかり、次郎長も、ちょんまげに、油を塗ったりで興奮気味のところに、この電話だ。 

 

「鬼吉が、捕まっちまったんで」

 

「本当に、銀行強盗やったのか」

 

「鬼吉は、もう夕刊の第一版に出てますよ、顔もでかでかと」

 

「馬鹿野郎、どうするんだ」

 

「やつは、美術館で、おっ始めちゃったんです」

 

 その日、グッゲンハイム美術館は、ハローウイン祭にちなみ、関係者だけで、ちょっとした、仮装昼食パーティーが催されていた。 現代建築の第一人者、フランク・ロイド・ライトの設計になる、この異色な建物は、まず、入場者を、エレベーターで、7階のトップフロアーに運ぶ。 そこから、壁と床が、巻貝構造と同じ原理で、床と、絵を飾った壁面が、空洞の吹き抜け天井を中心に、ぐるぐると大きな円弧を描いて、ゆっくりしたカーブで、次第に下がって行き、6階から1階、メインフロアーへと、一つの階段、何の障害物もなく、ほんの傾斜を感じさせる程度で、鑑賞者は、作品を追って行くうちに、もと来たフロアーに出てしまう、世界唯一の変形美術館である。 

 

 ワインのグラスを片手に、仮装とは云え、きちっと正装した、お偉方たちが、お話の真最中、柔らかな四重奏の生演奏も始まり、蝶ネクタイのボーイが、忙しそうに、ワインのお代りを運ぶ。 窓から、セントラルパークの紅葉を通して、秋の日差が一杯に降り注ぐ、全く申し分のない雰囲気。 そこまでは良かったのだが、人気(ひとけ)の無いはずの7階で、何やら、ゴーッと音がした。 すぐ止むかと思われたが、その音は、6階にも伝わっている。 小さな雷の様でもあり、ざあ、ざあ、にわか雨にも似ていたが、次第に量を増し、5階あたりにまで達した時、人人は、異状を感じ、皆な、一斉に見上げたが、何も見えない。 キャーと小さな悲鳴を聞いた人も居たが、本当に恐怖に変り始めたのは、音の正体が、渦巻型をした、この美術館の傾斜にそって、音の原因である、何か、大量な物質が、下に向って突進してきているのではないかと云う事実である。

 

 この田園の一角に似た、のどかな秋日和に一体何だ、ガードマンが数人、逆に一階から上に駆け上って行ったが、ギャーと銃い悲鳴を発した、すでに轟音(ごうおん)に変貌したそれは、豪雨の様に、一斉に、三、二階をなだれ下り、メインフロアーに、疾風の勢いで、互いに、はじき合い、飛びはね、鈍い金属音を発しながら、きらめき、何方と云う大群で、優雅な一時を吹きとばしてしまった。 

 

 鬼吉が、ボストンバック三杯分のパチンコ玉を、7階から、一気にぶちまけてしまったのだ。

 

 仮装の付けひげや、目隠しは千切れ、人人は、茫然と、グラスを手に立ち尽すが、滑って、しりもちを付き、一斉に自分たちの意見を吐き散らした。 特種、とばかり、居合せた記者は、ガードマンと一緒に、汗だくで、七階に向って駈け上がって行った。 この時、一隅から拍手が起こった。 

 「ブラボー」

 

 「ワンダフル」

 

 「すばらしい、ハプニングです、コレハ」

 


Copyright (C) 1999-2010 New-York-Art.com All rights reserved.