モーターサイクル・出目
motorcycle deme
1988
70 X 70 X 45 cm
カードボード・プラスチック・着色
ニューヨークの次郎長
第71回 大迫カの三人展
「親分、ただ今アマゾン見物から帰りやした、お元気とお見受けいたしやす、この二匹の三ぴんは、ブラジルの密林をほっつき歩いていたやつらで、ぜひ次郎長一家にと、何かの役に立つはずです」
「しばらくだなあ小政、でもよくヒッチハイクで、南米までたどり着いたな、帰りもか」
「へえ何とか、しかし、さすがはニーヨークの次郎長親分ですねえ、女三人添寝とはゴージャスことで」
「仕方がねえ、いっちょ起きるか、ええい」
素っ裸の次郎長が、キャンバスを一気にはねのけ、仁王立ちになった。これも生れたままの姿の三人娘が、体をよじりまくりて大慌て、
「うへへへ、こりゃあ大御馳走だぜ」
ジャングルをうろついていたと云う、飢え切っている三ぴん二匹は、今にも飛び掛らんばかり。
「控えろ! げす野郎、こちらは恐れ多くも、清水の次郎長親分の奥方、苺姐御様だぞ、横の二人は、親分の身の周りをお世話申し上げる腰元様、すだれの猿様にたこ目様、三ぴんがめったにお目にかかれるお方がたじゃあねえんだぞ、引っ込め」
鶴吉のやけくそとも取れるわれ鐘の如き一喝に、三米程すっ飛んだ二人は、忽ち床に頭をこすりつけてしまった。
「まず暖房だ、こんな冷蔵庫みてえなロフトじやあ、折角の客人は逃げ出しちまうぜ」
と次郎長は窓を差して云った。なるほど、三階の窓全部に、吹きだまった雪がカチカチにへばり付き、何日も溶けていない。
「若い衆、手分けして、路に落ちてるストーブ、五、六個、拾って来い、直して使うんだ、ガス管つないでガンガン暖めろ、幸いこのビルには、電気、ガスのメーターが無え、使い放題さ、それと、アメリカ中の親分衆に電話しろ、長距離でも何でも構わねえ、片っ端から御招待申し上げちまうんだ、花嫁衣裳か、よし借りよう、日本人なら誰だって豪華な着物を持って来ているはず、着てシャリシャリ出るパーティーのお呼びがねえだけよ、まさか、地下鉄乗るのに着て行けめえ、十着もお借りして来い、重ねて着りゃあ様にならあ、肝心の御祝儀の入れ物がねえなあ、小政、いい知恵貸しな」
「でっけえ千両箱、十個ほど山積にしたらいかがでしょう」
「さすがブラジル帰りはスケールが違わあ」
「して、親分、日取はいつで」
「早いに越したことはねえ、このままじゃあ俺たち飢え死にしちまうぜ」
むんむんする人いきれ、立錐(りっすい)の余地ないロフト披露宴会場、正面の壁に、テキーラ五十本で作った寿の文字が、床にぶちまかれた金粉に映え、キラキラ輝く。一方では、カリフォルニヤ産の新清酒を氷柱の上から、子分が流し、下のたらいに冷えたまったやつを、ひしゃくで飲む。まさか天下の次郎長が餓死寸前でのこの名案とは誰も気が付かない。
「いやあ、豪華けんらん、一年足らずで、清水も、えらく売り出しちまったもんだ」
「やることなすこと、いちいち派手でしたからねえ、それ忙しても姐御は随分うぶなお人で、素人に手え付けちまったんですかい」
「いやいやどうして、花嫁は体中入墨ですょ」
それを開いて周囲はびっくり、借着を何杖も重ね簀巻にされ身動きも出来ない有様の苺ちゃんの姿を、しげしげと見直していた。
「清水には、いい子分が大勢居なさると聞いていましたが」
それを聞いた次郎長は、傍らのテーブルのシーツをパッと取り、
「ここに控えさせてまさあ」
うぎゃあ-、どうしたんだ、これは。
石松、鬼吉ら五人の生首だった。次郎長苦心の作品である。