Who's Afraid of
Blue, Red and Green
Günther Selichar
ニューヨークでも一番の観光スポットであり、交通の要所でもある、かの有名なタイムズ・スクウェア。カップヌードルの宣伝や世界一大きい液晶画面広告など、数十のネオンがひしめく広告の激戦地でもある。その中州には各種コンサートや劇のチケットを販売するTICKETと、アメリカ軍のリクルート・ステーション(職業案内所)が隣り合わせに立っているが、そこから360度眺めると、眩暈がする。毎秒移り変わるネオン、行き交う人々、車、「忙しない」を視覚化した場所なのだ。ここで6月24日から9月30日まで、アート作品を発表した作家が居る。オーストリア出身のグンター・セリカー氏である。公共アート・プロジェクトを企画するCreative Timeとの協同制作だ。
グンターとCreative Timeが作品の発表の場として確保したのは、タイムズ・スクウェアの一頂点に位置するPanasonicの画面。毎朝と夕方の数時間を除く、毎59分から1分間だけの時間だ。因みに通常一分間の広告をタイムズ・スクウェアで放送するには、6万ドル、日本円で630万円も掛かるそうだ。
1分間という限られた時間で、しかもこの視覚的に非常に騒々しい場所に、一体どんな公共アートが挑戦できるのか。グンターは試行錯誤を重ねたことだろう。
グンターが行き着いたプロジェクトはかなり込み入っている。
第一段階では、誰でもアクセスできるウェブサイト上で、アクセスした人に青、赤、緑の三色と縦じまのコンビネーションで、アニメーションを作ることを要求した。このアニメーション制作方法は、全くの素人でも出来るようにプログラムしてある。三色と縦じまの幅のコンビネーションで、幾通りものユニークな画像が出来るようにしたのだ。
第二段階では、集まった600もの作品から最も優れた数点を選出した。グンター曰く、「優れた作品ばかりで、選出するのが大変だった」。グンターを含むアーティスト選考委員会(Justin Camerlengo, Carl Goodman, Peter Halley, Sarah Jacoboなど)が、結局3点を選んだ。作者の職業は美大生、アーティスト、アーティスト兼作家である。最終選考に残った中には、「いくらE-mailを通じて受賞を伝えても返事が来なかった」作者不明の作品もあったそうだ。インターネット上の匿名性が示された一面と言える。(もちろんCIAなど情報機関では、発信者の情報を掴むことが出来るのだろうけど。)
第三段階は、選出された3作品の発表だ。これが、タイムズ・スクウェアのPanasonicスクリーン上において行なわれた。毎時間59分から1分間だけ与えられた発表の場では、作品放映時間は僅か52秒。見たい人はその時間を狙って行かなければいけないし、何も知らない人はタイミング良く、59分に数十もあるタイムズ・スクウェアのネオン画面の一つであるPanasonicを見上げていなければならない。何とも限られた可能性の中に存在するアートであろう。この限定された側面と、$60.000という通常の広告料が背中合わせであるのが面白い。
実は私の場合、この作品を4度目に漸く見れた。というのも、最初に行ったのは6時59分。朝と夕方の通勤・帰宅ラッシュ時には、作品の代わりにニュースが流れということを知らなかったのだ。2度目、3度目は同じ日に作家本人と見に行った。確か7時59分と8時59分だったと思う。二人でカメラを構えて待っていたが、自分の時計が7時59分になっても始まらない。(その時気付いたのだが、タイムズ・スクウェアに数個ある時計は皆ずれた時間を刻んでいる。)しかし全ての時計が59分を経過しても、とうとうWho’s Afraid of Blue, Red and Greenは放映されなかった。オカシイ。もう一時間待ってみよう。タイムズ・スクウェアを見下ろせるバーで時間を潰し、8時59分にまたPanasonicの下で待機した。が、それでも作品は流れなかった。
グンターの機嫌は悪かった。「これは明らかに規約違反だ。」そしてこのように大企業が関わるプロジェクトの面倒くささをこぼしていた。「明日Creative Timeの誰々に連絡して、Panasonicの誰々に連絡を取ってもらわなければいけない。」原因が解明され、問題が修復されるのには時間が掛かりそうだという印象を受けた。結局、コンピューター・トラブルが原因で作品が流れず、次の日には修正されていたようだが。そして、私は何週間後の3時59分頃、無事作品を閲覧することができた。
タイムズ・スクウェアの真ん中に佇み、期待と不安で見上げたPanasonicスクリーン。私の衛星時計が59分を刻んでから、10~15秒遅れて始まった。黒い背景に浮かぶ白地の「Günther Selichar」と「Creative Time」、簡単な作品解説。もちろんゆっくり読む間もなく画面は移り変わってゆく。何しろ与えられた時間は60秒間しかないのだ。
そして、終に始まった青、赤、緑の縦じま三色によるアニメーション。忙しく色が交差する。綺麗なんだろうか?周りの反応は?慌てて周りを見回す。通行人は相変わらず足早に行き交い、観光客はどこともなくカメラを向けている。この場所、この瞬間に何百と居る人の一体何人がPanasonicで上映されている「アート」を見ているのだろう。何名、多くて十何名。数十人居るだろうか。それとも、見ている人の数は問題でないのかもしれない。こんなに手間暇掛かっていて、大勢の人が関わり、熟慮された「アート・プロジェクト」が、この場にあって、僅かな時間に僅かな人にしか見られないのがアイロニックで、どことなく寂しさを醸し出している。それに、何もこの最終的段階を見なくても、作品は存在するのだ。これを読んだけど、残念ながら実際にタイムズ・スクウェアで見れなかった人も、グンターの作品の全体像を知っている:作品を体験しているのだ。
秀島美弥
For more information:
http://www.creativetime.org/59/selichar.htm
Photo Credit for Günther
Selichar’s Who’s Afraid of Blue, Red and Green?
Photo: charliesamuels.com © 2004.
Photographic still of Who’s Afraid of Blue, Red and
Green?
Conveived by Günther Selichar in The 59th Minute
Video art on the NBC Astrovision by Panasonic,
6/24/04 – 9/30/04.
Presented by Creative Time in partnership with
Panasonic.