Interview with
Marc ven den Broek
ニューヨーク在住5年目のマーク・バン・デン・ブルックはベルギー出まれ、20歳頃からドイツを拠点にアーティストとして活動してきた。書道好きのマークとは書道展で知り合った。自作のBrush
&
Inkシリーズを見せてくれた。ところが、他の作品群は大型、鉄鋼作りの機械仕掛け。「書の作品とハイテク・アート作品に共通するところは?」と訊ねたところ、「直感。本当の書道家はどうか分からないけど、後戻りできない書は直感をベースにしており、他の作品は直感的なアイディアの元に制作される。」という回答をもらった。
スタジオはウィリアムズバーグ、East
River近くの工場を改造して、3階建て青いエレベーター塔が目印だ。マークのスタジオは剥き出しレンガ壁、高い天井、壁や天井から掛けられた作品の数々が陳列され、個人のギャラリーといった感じだ。
24歳で初個展。「出展したのは70年代らしい社会的メッセージを含んだドローイング。ナイーブでチマチマした絵だった。」空想的な有機体が緻密に描かれた作品だった。「20年代はまだ自分を良く分からず、ぐるぐると探している最中だった。旅行もたくさんした。」インド、パキスタン、イラン、イラク、東南アジア。ヒッチハイクなどをして、東南アジアには一度に2、3ヶ月も行った。初めての仕事は舞台デザイン。「若い頃はいろいろな方向を試し、もちろん全てに優れている訳ではないから挫折も味わい、そうやって自分のものを徐々に見つけていった。」
20歳後半で初めて大掛かりなコミッション作品 Communication Tower
を手がけた。人が近づく音を察知し、光源装置を作動する。フレーム内に作られた溝でこの光源が屈折し、様々な光の模様が編み出される。この作品を切っ掛けに数々の大きなプロジェクトに関わることになった。作品はドイツ中の銀行、政府関係のコレクションとなり、多くは一般公開されている。
幾つかの作品をここに紹介する。
Wegmarke
ドイツ、Wiesbaden市文化庁正面入り口、ゴシック建築の柱前2mの位地に設置された作品。直方体から柱の部分を切り取った鉄製部分、背後2cm間隔に立つ真鍮製のパネルから成っている。二種類の異なる金属の為、雨が降ると磁力が発生し地面に電磁波を起こす。
Cube & Pyramid
太陽が真上に来たとき球体が開き始め、引っくり返るかたちで最終的に立方体を成す。また上部の三角柱(ピラミッド)も同時に解体し始め、台座上空中で飛行姿勢を取り静止する。日の入りと共に逆の動作で元の体系に戻る。
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Breathing Star
フランクフルトの企業Kreditanstanlt for
Reconstructionのリクエスト、「殺風景な排気口をどうにかして欲しい」に応じて設計制作された。排気口の空気が出入りする実用的な用途を「呼吸」に結びつけた。折り重ねられた鉄製の幾何学的な形が、呼吸のリズムでそれらが開閉する。無機質な排気口を詞的なものにした。柔らかい呼吸のイメージと金属の硬質、荒いイメージの対極もおもしろい。
Solar Writer
「太陽のドローイング」ソーラーパネルを利用して太陽の動きを察知し、対極にある紙に太陽の動きを焼き付ける。
Aura Crystal Instrument
手でキーボードに触れることにより起こる静電気が液晶を刺激し、液晶は紫外線によって感光化される。この効果によって液晶画面に架空の文字や番号が現れる。
「自分を知ること」が究極の人生の課題である。
マークの作品の特徴は、自然界のエネルギー、即ち音、太陽、磁力、静電気、赤外線を利用すること。必然的、永続的であることだ。エネルギーを目に見えるドローイングにする、形にする。起こるべくして起こること、当たり前のものとして捉え日常忘れてしまいそうなものを改めて提示する。現代の技術とセンスで魅力的な作品を仕上げる。
このような作品はマークの人生哲学の上に成り立っている。
1)自己に厳しくあること。真実と美。究極の個人的課題を実直に扱う。他人との関係はその上に成り立つ。2)環境:自分が育った環境に甘んずることなく、それまでの秩序を諦め、自分自身のものを再構築する。社会での自分の位置、モラルの確立。それが本当の自由であり、Loveである。「自分はこうやって育ってきたから、これはできないだろう。」などと無意識の内に自分自身を制約することがあるが、それからの開放が自由だ。自由に自分の能力や可能性を試せるのは、自分自身をよく知ってこそである。3)物質と精神:物質と精神は近くなくてはいけない。木、鉄、真ちゅう、あらゆる材料と精神的な繋がりを持って関わる。私の制作過程ではこれを大事にしている。一旦素材との精神的繋がりが確立すると、その素材で何をしたら良いか自然にわかる。それがどんな材料であってでもだ。この関係を確立するには、やはり自分自身を知ることが肝心である。
マークの哲学の核心を成す「自分を知ること」が一番シンプルに表現されている作品を最後に紹介する。ドイツの街の一画開発プラン:提案したのは街の中心街に「空洞」を創ること。慌しい街の生活に何もない空間、床、壁と空という極限にシンプルな空間は必要だと思う。その場へ立ち入ると、周りの喧騒を遮断し個人個人が自己と向かい合う場所を提案した。また自己対話の必要性、それに対する社会のサポートを要請したプロポーザルでもあった。しかしこの提案は街によって却下された。
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現在のプロジェクト
現在のマークは何足かの草鞋を履いている。美術館総合デザイン:Cal Academy(San
Francisco)、Field Museum(Chicago)、Science
Museum(Florida)の美術館総合デザインを担当。総合デザインとは、展示スペースのデザインを、美術館の方向性、目的に合わせて開発していくなどの役割をいう。シンクタンク:Saat
Schiというリサーチ会社のシンクタンクに所属。プロジェクト・プロポーザル:ニューヨークの古い立体型鉄道線路の開発プランを市が募集しているが、そのポロポーザルを友人と一緒に準備中。無数のデザイナー、アーティストが応募するので、結果が楽しみ。
Thank you for taking your time, Marc.
秀島美弥