ナム・ジュン・パイク : トランズミッション
Nam June Paik: Transmission
ロックフェラーセンター前広場
6/26~9/2、2002
ナム・ジュン・パイク、”トランズミッション”,2002
©S.Yoshida
ロックフェラーセンター前、むかって右手より
©S.Yoshida
ナム・ジュン・パイクのインスタレーション、”トランズミッション”が、ロックフェラーセンター前広場で公開されている。これは、パブリック・アート・ファンドの企画によるもので、一昨年はジェフ・クーンの巨大”パピー”、昨年はルイ・ブルジョワのブロンズ製の大蜘蛛”ママン”で話題になった。これら過去の作品は、ヨーロッパですでに公開されたことのあるものだったが、パイクの作品は、はじめてファンドがロックフェラーセンターのために企画したものだ。“トランズミッション”とは、伝達、送達という意味。放送、車がその手段であるように、パイクのインスタレーションは、30フィートの電波塔とそれを取り囲む16台の車によって構成されている。
ロックフェラーセンターむかって左手より
©S.Yoshida
広場中央に立つ電波塔には、昼間、赤、青、緑のネオンが走る。レーザーの専門家、ノーマン・バラッドの協力を得て、夜には毎時間ごと真夜中までレーザー光線を発する仕組みになっている。これは、20世紀におけるブロードキャスト・コミュニケーションと21世紀におけるレーザー技術による新しいコミュ二ケーションの融合を示唆する。この電波塔が、ロックフェラーセンターに本拠地を置く、全米最大の放送局の一つであるNBCの前に位置する事が興味深い。
©S.Yoshida
©S.Yoshida
©S.Yoshida
16台の車は、“モーツアルトのレクイエムを静かにかなでる20世紀に捧げる32の車(1997年、ソウルのサムソン文化ファンデーション)”から流用された。”32の車”は、パイクの様々なテーマの中で頻繁に<再活用>される作品である。すべて1920年~50年代の車からなり、銀色にペイントされた車体に備え付けのスピーカーからはレクイエムが流れる。20世紀で最も重要な発展をとげたのは、車とメディアテクノロジーだった。しかし両者は便利さとともに社会への弊害ももたらした。この車とメディア産業の台頭と危機が、パイクが扱ってきたテーマだった。
ロックフェラーセンター前、むかって左手より
©S.Yoshida
”トランズミッション”は、未来における私たちの文化への危機を示唆している様にも見える。しかしたとえパイクが批判を込めたとしても、それはけして攻撃的なものではない。だからだろうか、”トランズミッション”は、入れ代わり立ち代わりお気に入りの車の前でポーズをとる観光者たちの姿によく合う気がした。
(Yoko Yamazaki)
©S.Yoshida