美術手帳 1984年10月号掲載
[作家訪問]
篠原有司男
- 早く、美しく、リズミカルに……
もちろん人には完璧にできたと言うんだけど―
もうこれ以上わからない、あなたも一緒に見てくれ、と言う部分が必要なんだね。
【第2回】
▽彫刻作品の場合、一点にどのくらいの時間をかけるんですか。
▼カードボードっていうのは曲げたり折ったりしやすくて、モデリングがすごく簡単なんですよ。 それと、ぼくは金持ちではないから、早く作って見せないと食えないわけでしょう。 だからスピードっていうのは大切なんですよ。 カードボードだったら失敗したら捨てても全然惜しくない。 ただ、絵というのは大作になると十万から五十万円ぐらい材料にかけないと描けない。 絵具なんかバケツで買ってくる。
彫刻の場合、材料とってきて、切って、くっつけて、色つけて、乾くの待ってというような手順があって、逆に言うといやでもそのうちできあがるけれど、絵の場合は直接キャンヴァスにとりかかるわけですよ。 だから絵の場合は特にスピードというのは必要で、どんな大作でも一週間以内に仕上げますね。 でないと、そうしてる間にもどんどん刺激をうけているからやりたいことに追いつかないんだね。
モトクロス
1977
60 x 50 x 30 cm
カードボード・プラスティック・アクリル
▽つぎつぎに湧くアイディアはスケッチしておくんですか。
▼スケッチその他はいっさいなし。 最初に描く時のスリルが大切なわけで、なにかの下絵としてのスケッチはやらないことにしているドゥローイングはドゥローイングとして描きます。
▽一九六九年にニューヨークに移り住まわれて、そこで制作されているわけですが、作家にとってニューヨークという街はどういうところですか。
▼昨年、十一年ぶりにぼく自身も帰国して展覧会 ― 昨年のは絵画中心、今回は彫刻中心 ― をやったわけですが、これが七〇年代半ばの<もの派>の最盛の頃だったら全然……、と思うこともあるんですよ。 アメリカでもトップの画郎ではコンセンプチャアルな仕事を発表してたけれど、町の画廊でウロウロしてる画家はほとんどがベタベタと塗りたくる表現的な仕事をしてたんです。 つまり、自分がその時点の流行と全然違うことをやっていても、仲間がいくらでもいるわけですよ。 作品がまったく売れなくて乞食みたいになっても、自分の作りたいものを作って行ける、そうしてこれた、ということを思うと、ソーホーに住んでてよかったなあと思うね。
去年は超大作が二枚売れて、そのお金でまた絵も一番たくさん描けたし、旅行もできたわけでしょ。 その前に売れた時にジャマイカに旅行したんですよ。 それで興奮して描いたのが、去年の展覧会に出した「ジャマイカ」シリーズ。
酒呑童子
1984
229 x 363 cm
キャンバス・アクリル