写真のコラージュによるSF風エッセイ(前衛の道 P.164からP.175まで)
金髪のマリリン・モンローの大作、真赤な唇がどぎつい。となりにそれとまったく同じタブローが、漂白されたように白い壁にかかっている。だが、こちらは唇だけがネオン・サインで縁どられている。アンディ・ウァホールとフランスの新鋭マルシャル・ライスの作品だな。壁が庭に向かって伸びて行き、先がぐにゃぐにゃと曲がり、黄色に着色されているのは、流行の新型彫刻プライマリー・スタラクチュアーだ。その庭にある大プールはコースごとに原色で塗り分けられ、その中を裸女と、これも漂白されたようなイルカの群がはねまわっている。プラスティック製の椅子が勢いよく部屋の中央にある鋼のオブジェに向かって飛んだ。
悪玉ピカリをやっつけたぼくらはこんどは、アメリカ最大の大物マルセル・クシャンに立ちむかうため、世界中のエージェンシーから、人気絶頂の諜報部員を金にまかせて集めた。
ボンドを先頭に、エメモス・バーク、ナポレオン・ソロらがみなドレスアップしてクシャンの生地北フランスのヴランヴィルに勢ぞろいした。しかし、クシャンはそのとき、ニューヨーク、リンカンセンターの五十七階の階段を兄弟、取巻きをしたがえ、ゆうゆう降りながら、胸の万年筆型のマイクにつぶやいた。
「質問=芸術家の肉体の死と同時に、彼の芸術をも扼殺する方法がいかに」
ヴランヴィルのホテルでこれをキャッチしたバークは、よし、アクションと叫んで疾風のごとく西に向かった。
ナッソーの黄金の牙の淵に飛びこんだパークの率いる三十人のフロッグメンはサメを追いながら進んだ昆布の林の奥にひろがるひときわ明るい平坦な砂地が続く南国の海底に、雲のかたちを思わせる磨きぬいたアルプの全作品が散らばっているではないか。その向こうにエルンストとプランクージの彫刻がブルの砂地に突っ立ち、原色のヒトデがにくい。
「海底美術館だ」
中国紅衛兵の追跡をのがれて、ここに逃げ込んだのだ。
「マルセルはどこだ」
ガラスが海水にとけあい、花嫁と独身者の機械だけが水中にふわふわ遊泳している。
と、二十人あまりのフロッグメンが反対側から近づいた。マルセル・クシャンの百二十回目の誕生日のため集まっているのだ。中のひとりが、ニューヨークの近代美術館にあるはずの代表作「秘めたる音に」を運んできた。レディメイドのこの作品の真鍮版二枚の間にはさまった紐を巻いて作った球の中に、何物が入っているか本人も知らないはずだ。
が、突如大音響とともにそれが爆発した。バークによって小型水爆が仕掛けられていたのだ。
「答え=アトムが気軽に解決してくれるさ」